能登半島周辺の海藻

~能登詞藻庵(のとしそうあん)の海藻日誌~

能登島産 エンドウモク Sargassum yendoi について~2019.12.21~

改訂版があります。

より情報量が多いのでこちらも参考にしてください。

cladoalgae.hatenablog.com

昨日(2019年12月21日)、石川県能登島にある松島に海藻採集に出かけました。

すると打ち上げ海藻の中に

エンドウモク

Sargassum yendoi

が何個体も含まれており、中には付着器を有する個体もありました。

私が打ち上げ採集を再開して1年弱の間に、エンドウモクはまだ1回しか採集できていなかったので、これには大変驚きました。

また能登島 松島の打ち上げで本種を確認したのも初めてでしたので、採集した個体を撮影し、その形態的特徴をまとめました。

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1.付着器

各種図鑑には、エンドウモクは盤状根を持つとあります。

今回、運良く1個体が付着器を有していました。

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付着器の様子

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付着器の様子 その2 裏側

ごちゃごちゃとしていて、形がよく分かりません。

盤状根あるいは円錐状根の様にも見えます。

2.茎

付着器から数本の茎が伸びていました。

いずれも円柱形で、表面はいぼ状となり凸凹していました。

これは各種図鑑の記述とよく一致しています。

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茎の様子 その1

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茎の様子 その2

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茎の様子 その3

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茎の様子 その4 別個体

3.主枝と側枝

 主枝は偏圧した2稜形をしており、茎の頂部より複数本が生じていました。

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偏圧した2稜形の主枝

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茎より伸びる主枝 その1

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茎より伸びる主枝 その2

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茎より伸びる主枝 その3

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茎より伸びる主枝 その4

互生的に側枝が生じており、また側枝は2稜形の主枝の稜側から生じていました。

これはSargassum亜属の重要な形質であり、採集個体がSargassum亜属に属していることは確実です。

またこの特徴により、エンドウモクは全体として平面的な枝ぶりとなります。

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稜側から生じる側枝や葉 その1

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稜側から生じる側枝や葉 その2

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稜側から生じる側枝や葉 その3

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本種(Sargassum亜属)の側枝の生じ方

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ノコギリモク(Bactrophycus亜属)の側枝の生じ方

4.葉

付着器に近い部分の葉は全縁~ゆるい鋸歯状で、縁辺はゆるく波打ち、形は披針形でした。

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付着器近くの葉 その1

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付着器近くの葉 その2

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付着器近くの葉 その3

藻体中~上部の葉は細長い披針形で、鋸歯もしくは重鋸歯を有していました。

葉の先端は尖るものとやや鈍頭のものがあり、中肋は埋在した形で明瞭に葉の先端まで達し、基部は左右非対称でした。

また葉が途中でふたまたなどに別れることはありませんでした。

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藻体中~上部の葉 その1

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藻体中~上部の葉 その2

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藻体中~上部の葉 その3

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藻体中~上部の葉 その4

5.気胞

 気胞は球形で、冠葉を持たず、気胞自体よりも長い柄を有していました。

これはエンドウモクの大きな特徴の一つです。

またまれに柄の部分に小さな棘を有することがありました。

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気胞の様子 その1

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気胞の様子 その2

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気胞の様子 その3

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気胞の様子 その4

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気胞の様子 その5 柄に棘を有している

6.生殖器

今回採集した個体で、生殖器床を有していたものはありませんでした。

今後、生殖器床付きの個体が採集できれば、追記していく予定です。

7.藻体

各図鑑の記述と最も合致しないのが、藻体の高さ(大きさ)です。

今回、能登島の松島で採集した個体や以前にかほく市で打ち上げ採集した個体には、1.5m以上の大きさになるものがいくつもあり、明らかに2m以上ある個体もありました。

ところが図鑑では40~60cm程度が一般的です。

以下に記述のあった各図鑑のエンドウモクの高さ(大きさ)を示します。


瀬川宗吉 1977.原色日本海藻図鑑 増補版.保育社. 40~50cm
千原光雄 1990.学研生物図鑑 海藻.学習研究社,東京. 50~60cm
千原光雄 1970.標準原色図鑑全集15 海藻 海浜植物.保育社. 50~60cm
田中次郎 2004.日本の海藻 基本284.平凡社,東京. 0.5~1m
島袋寛盛 2014.日本産南方系ホンダワラ属 11回目:平たい主枝をもつエンドウモク. 海洋と生物 36: 403-407. 40~60cm

 

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藻体の様子 その1 この個体で約1mある

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藻体の様子 その2 ラベルはノコギリモクだがエンドウモクの誤同定

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藻体の様子 その3 藻体があまりに大きくごちゃごちゃになった押し葉

上の写真の個体は明らかに2~3mの大きさがありました。

日本海側の個体は、大型化する傾向にあるのでしょうか?

あまりの大きさの違いに、初めは本当にエンドウモクかどうか迷いましたが、Sargassum亜属で平たい主枝を有するのはヤツマタモク、シロコモク、マメタワラ、チュラシマモク、ヒラミモク、そしてエンドウモクだけです(島袋 2014)。

ヤツマタモク、マメタワラは明らかに本採集個体と形態が異なりますし、シロコモク、チュラシマモク、ヒラミモクは日本海側に分布していないので、やはりエンドウモクと同定するのが妥当でしょう。

更に詳しい調査が望まれます。

8.まとめ

2019年12月21日に能登島の松島で打ち上げ採集したホンダワラ類は、

円柱状でいぼ状の茎を有し、

その茎から2稜形の偏圧した平たい主枝を伸ばし、

側枝や葉は主枝の稜側から伸長し、

藻体中~上部で細長く披針形、明確な中肋をもつ鋸歯状の葉を有し、

球形で冠葉のない気胞を有し、

気胞の柄は長く伸長して気胞自体の大きさよりも長くなる、

という特徴を有していました。

これらの点から、採集したホンダワラ類を

エンドウモク

Sargassum yendoi

と同定しました。

なお付着器は盤状か円錐状か不明瞭であり、

生殖器床は付けておらず、

藻体の大きさが各種図鑑の記述と大きく異なり、のきなみ1mを超えていました。

この3点に関しては、今後新たな採集個体や情報が得られた場合、順次更新していくつもりです。

 

本記事を執筆するにあたり

島袋寛盛 2014.日本産南方系ホンダワラ属 11回目:平たい主枝をもつエンドウモク. 海洋と生物 36: 403-407.

を大いに参考にさせていただきました。ありがとうございました。

 

また改めて能登の海の面白さを感じました。

沖つ玉藻のなのりその森、それが能登の海です。