能登半島周辺の褐藻 ウスイロモク(Sargassum pallidum)について 第1回 ~ウスイロモクの季節消長~
※このページの文章は専門家による監修を受けていません。参考としてご覧ください。
ウスイロモク
Sargassum pallidum
という種類がいます。
本種は国内での生育範囲が秋田県~石川県・富山県までとされており、日本海の限られた範囲にしか分布していません。
そのため本種についての詳しい情報は限られており、島袋(2021)によると、ウスイロモクが生育しているという単発的な調査報告はあるものの、季節消長などの生態的特徴を調査した例はほとんどないのが現状です。
そこで筆者は2021年の9月から富山県氷見~石川県能登島までを中心とした範囲で本種の打ち上げ採集を出来る限り毎月行い、幸いに1~12月の各月において打ち上げ藻体を得ることが出来ました。
また藻体各部の形態写真もまとまってきたので、本種の様々な形態的・生態的特徴を各テーマごとに別けて、このブログ上に発表していく予定です。
第1回のテーマは「ウスイロモクの季節消長」です。
得られた打ち上げ藻体から、本種の成長過程、季節による形態変化、成熟期間などが少しずつ分かってきました。
以下に各月ごとの腊葉標本を並べ、その季節消長を示します。
なお月によっては得られた打ち上げ藻体数が1~2個体の月もあり、図中にある”低年級~高年級”の比較は厳密なものではなく、あくまでも筆者の主観による大まかな目安であることをお断りいたします。
また生殖器床を付けていた標本に関しては、採集年の前に赤丸を付しました。
簡単にまとめると
①藻体
春から新葉が伸長していき、夏から秋にかけても本種は成長が進んでいるように感じる。
冬には藻長が大幅に伸長し、成熟が始まる。
そして翌年の春に放卵し、葉と生殖器床を含む枝は次々と脱落していく。
一方で茎からは新芽が育っており、この新芽が旧葉の脱落と並行して伸長し始める。
以下このサイクルの繰り返しである。
本種は明らかに多年生である。
茎は年を重ねるごとに伸長し、去年以前の主枝の脱落痕が明瞭に観察される。
幼胚から発生した幼体の成長の様子は、残念ながら筆者はまだ明らかに出来ていない。
②葉
幅の広い鈍円の新葉は、春以降に古い枝が脱落するのと並行して伸長し始める。
夏以降は徐々に葉幅が狭まり始め、縁辺には鋸歯が目立ち始める。個体によっては重鋸歯となる。
冬になると藻体上部から小型化していき、葉幅も大幅にせまくなり、縁辺の鋸歯は小さく、あるいは全縁となる。
また春から成長が進み主枝が伸長すると、茎近くの主枝下部から直接生える葉や側枝は脱落し、主枝の中部~上部にのみ葉ないし側枝が付くようになる。
さらに葉の質は成長度合いによって変化し、新葉~若い葉では硬く、折り曲げるとカバノリのようにパキッと割れる。また縁辺が強く波打つものも多い。一方で冬場に見られる全縁で葉幅の狭い葉では、藻体の上下を通して質は柔らかくたおやかである。縁辺が波打つこともない。
③生殖器床
2023年6月現在、最も早くて2月から生殖器床の形成を確認している。
早ければ4月には生殖器床自体が枯死し、中心の芯だけを残して流失している個体も見られるので、この前後の時期には放卵していると予測される。
生殖器床は今のところ6月まで藻体に残っているのを確認している。7月にはもうない。
④その他雑感
本種はその打ち上げの様子から見て、夏場でもある程度の葉を持った藻体を維持していると思われ、夏枯れによって林床が貧弱になった海中において、魚などの貴重な隠れ場所になっている可能性がある。
今後は藻体各部の形態や季節による変化、近縁種であるフシスジモクとの相違点を紹介していく予定です。
最後に国内のウスイロモクの生態・形態について書かれた論文を以下に紹介します。
このシリーズはこれらの論文を参考にしています。
新井章吾, 筒井功, 寺脇利信 1996. 能登半島に生育するホンダワラ類の概要と生態的視点を背景とした検索表. のと海洋ふれあいセンター研究報告 2:7-16.
島袋寛盛 2021. 日本産温帯性ホンダワラ属 26回目:ウスイロモク. 海洋と生物 43: 321-326.
Yoshida, T. 1983. Japanese species of Sargassum subgenus Bactrophycus (Phaeophyta, Fucales). Journal of the Faculty of Science Hokkaido University Series V (Botany) 13: 99-246.
吉田忠生 1985. ホンダワラ類の分類と分布(4).Teretia節-1.海洋と生物 37: 106-109.