能登半島周辺の海藻

~能登詞藻庵(のとしそうあん)の海藻日誌~

2020年秋 北海道海藻採集 12日目 道東沿岸に黄金郷を見た

2020年10月4日

厚岸~藻散布~霧多布~根室

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注意:11日目は特に採集も行わず、また旅の疲れか昨夜は爆睡してしまったので、欠番となります。

 

1.厚岸沿岸

先に書いておきます。

今日は神の一日でした。

私が北海道で採りたいと思っていた海藻が、今日一日で全部採れました。

こんな幸せなことがあっていいのでしょうか...?

欠番となった昨日11日目は、浜でタイヤがスタックしJAFに救出してもらうというトラブルがあっただけに、まさに人間万事塞翁が馬だと痛感します。

それでは神の一日の記録をどうぞ。

 

まず私は厚岸の宿を出たのち、厚岸大橋を渡ってすぐの漁港の舟揚げスロープを確認しました。

実は昨日少し厚岸湖岸を歩いてみたのですが、打ち寄せているのは水草ばかりで、正直内湾側では海藻の打ち上げ採集は厳しいと予測しました。

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厚岸湖岸の様子

そこで外湾域であるこちらの漁港を目指したのです。

しかしヒバマタは繁茂していましたが、特にめぼしい収穫はありませんでした。

さすがに時期ではなかったか。

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次に目指したのは浜辺になっている場所です。

厚岸周辺の岸辺は、アクセスできない断崖か港湾施設がほとんどで、自然海岸をさがすのに苦労しました。

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結果は...ビンゴ!

ニコンブ(Saccharina japonica var. diabolica)を中心として、打ち上げが多数ありました。

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でかい...

そしてアナメ(Agarum clathratum)の打ち上げの多いこと!

それも小さい個体ではなく、50センチオーバーの大型個体があちらこちらに打ち上がっていました。

ものの10分でこの成果です。

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またオニコンブの状態の良いものがあったので、撮影しました。
マコンブに似ることと、縁辺が若干波打ち波縮しているのでオニコンブとしました。

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2020年秋 北海道海藻採集 12日目(1) 厚岸 オニコンブ 打ち上げ

 

2.藻散布

次に私は藻散布(もちりっぷ)のある浜に立ち寄りました。
ここが神の浜その1でした。

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先ほどの厚岸の浜よりも、はるかに状態の良い海藻がわんさか打ち上がっていました。
私の大好きなアナメも大型個体が素晴らしい鮮度でそここに打ち上がっています。

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アナメだけではありません。
ずっと見たいと思っていたアイヌワカメ(Alaria praelonga)も打ち上がっていました!

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胞子葉

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観察した動画です。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(2) 藻散布 アイヌワカメ 打ち上げ


さらにトロロコンブ(Saccharina gyrata)も打ち上がっていました。
トロロコンブは道東のみに生えるコンブです。

一般的な食品としての「とろろ昆布」はマコンブなどほかのコンブ種を用いたものがほとんどです。

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トロロコンブは中肋が極めて細く、その両脇に独特の雲状紋を持ちますが、残念ながらこの個体は模様が薄かったです。
更に腊葉標本にすると、より模様は薄くなってしまうとのことです。

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打ち上げを撮影した動画の中に、より雲状紋のはっきりした個体が写っていました。

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観察した動画です。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(3) 藻散布 トロロコンブ 打ち上げ

この浜、奥へ進むとさらにとんでもない量のコンブが打ち上がっていました。

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す、すごい...
時間さえ許せば、一生ここで打ち上げをゴソゴソしていられる...
コンブ目植物では他にオニコンブと特にナガコンブ(Saccharina longissima)が多く打ち上がっていました。

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ナガコンブ 2020.10.03 釧路市にて撮影 これで1個体

打ち上げ風景の動画です。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(4) 藻散布 打ち上げ海藻


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(5) 藻散布 打ち上げ海藻

非常に名残惜しかったのですが、次の浜へ向かうため、私はこの神の浜を後にしました。

 

3.霧多布

次に立ち寄ったのが霧多布のある浜です。

ここが神の浜その2となりました。

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時刻は午後2時前後となり、潮は上げ潮、ぱっと見では海草ばかりが打ち寄せ、正直期待はしていませんでした。

ところがよく見るとところどころにナガコンブやオニコンブが打ち上がっています。

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そしてこれもナガコンブかなと拾い上げた個体が、なんとあこがれの

ゴヘイコンブ(Laminaria yezoensis)でした!!

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日本産コンブの多くがSaccharina属へ移された現在、ゴヘイコンブはわが国で唯一採れるLaminaria属のコンブです。

盤状の付着器を持ち、これも我が国のコンブ目植物では唯一の珍しい特徴です。

葉は1年目では単条ですが、2年目からは上部から基部へ向かって縦に裂けはじめます。

そして数条の裂葉をもった掌状の形となります。

手触りは革質で、意外と粘質でした。

正直裂葉の先端だけが海草の間からのぞいている段階では、ナガコンブと区別がつきませんでした。

上の個体①は基部から千切れていて、茎や付着器は確認できませんでしたが、それでも立派な裂葉をもつ紛れもないゴヘイコンブでした。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(6) 霧多布 ゴヘイコンブ 打ち上げ

個体①を拾ったすぐ近くで、今度は個体②を拾うことが出来ました。

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こちらの個体は付着器を欠きますが、茎を残していました。

茎は最初円柱形で付着器から伸び、基部に近付くにつれて扁平になっています。

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個体②は癒合した付着器から2個体が伸びていました。

特に写真右側の個体は、2年目の再生中の個体と思われ、上部から裂け目が入り、おそらく子嚢斑も形成しています。

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観察した動画です。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(7) 霧多布 ゴヘイコンブ 打ち上げ

そしてまたその近くで個体③が採れました。

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ついに付着器完備の個体を見つけることが出来ました!!
見てください、図鑑にある通り見事な盤状根です!

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茎の長さは約10センチメートル前後。

国内で採れるゴヘイコンブとしては平均的な長さです。

北方領土や千島列島産の個体では時に100センチメートルにも達することがあります。

葉は大きく4葉に分かれているように見えますが、写真右端の2葉は裂け目を見ると自然に裂けたのではなく、外部からの力によって裂けたことが分かりました。

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下部の裂け目は自然な裂け目ではなく、外力による裂け目であるとわかる

よってこの個体は、もともとは3葉に裂葉中の個体だったようです。

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観察した動画です。


2020年秋 北海道海藻採集 12日目(8) 霧多布 ゴヘイコンブ 打ち上げ

霧多布ではこの後さらにもう1個体、小型で付着器を欠くゴヘイコンブを拾うことが出来ました。

 

私は北海道でどうしても採りたかった海藻がありました。

アナメ

チガイソ

アイヌワカメ

そしてゴヘイコンブです。

今日で私は、この4種の海藻を全て採集することが出来ました!!

最悪もう明日帰ってもいいです(笑)。

特にゴヘイコンブはネット上でもほとんど画像もなく、文献も少ないです。

その幻の海藻を自分で採り、この目で観察し、触れることが出来たのは、本当に本当に幸運なことでした。

みなさん、本当にありがとうございました。

誰かに感謝しないと、申し訳ないくらいにうれしいのです。

もう自宅の冷凍庫もパンパンになるので、これからはこれはと思う海藻に限定して拾うことにします。

オホーツク海側、紋別か網走までは海藻を見て回ります。

またゴヘイコンブの仲間には繊維状根をもつチシマゴヘイコンブ、クマデコンブ、ホソバチャセンコンブ、チシマサツマタコンブがいます。

これらは北方領土および千島列島にしか生えておらず、またゴヘイコンブの中でも茎長が100センチメートルを超えるものは同じく千島産の個体です。

さらに加えて、オニワカメやブルケルプ、キクイシコンブなどあこがれの海藻はまだまだあります。

このような漂着個体も今後の旅で出会えるといいなぁ。

それではまた。